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北米大学院留学の準備,心理学研究,ブレインストーミングなどをトピックとするブログ

Emotional Supportはお得か? 独立的/相互独立的な文化圏でのWell-beingと健康

Uchida, Y., Kitayama, S., Mesquita, B., Reyes, J. A. S., & Morling, B. (2008). Is Perceived Emotional Support Beneficial? Well-Being and Health in Independent and Interdependent Cultures. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(6), 741–754.

https://doi.org/10.1177/0146167208315157

 

要旨

これまでの研究では,欧米文化では,emotional supportの知覚とwell-beingとの間に関連がないか或いは小さいとされてきた。

筆者はemotional supportにベネフィットがないという矛盾した結果は,独立的自己観(vs. 協調的自己観)優勢の文化に特有の事ではないかと仮説を立てた。

研究1は,大学生を対象に検討した。

結果は予測通りで,欧米人においてはemotional supportが主観的well-beingに及ぼす正の影響が弱く,自尊感情が統制されるとその影響が完全に消失した。対して,アジア圏に住むアジア人(日本人,フィリピン人)においては,自尊感情を統制しても,emotional supportが主観的well-beingに正に影響していた。

研究2は,対象を日本人とアメリカ人の成人に広げた。彼らは人生の中間地点にいて,well-beingと身体的健康の観点から検討した。

全体として,本研究は,文化がemotional supportの知覚が及ぼす影響を媒介することを示す結果となった。

 

Keywords:

perceived emotional support, self-esteem, well-being, culture, independence, interdependence

 

 

メモ

この論文は別の論文で何度か引用されていたのを見たことがある。

文化心理学の論文の中でも重要なんだろうな,と思ってピックアップした。

できればフルで読みたい。うん,読もう。

さらに余談だが,内田先生の論文はそれなりに収集していて,この間あさっていた時に興味深いパス図を見た。

その図が載っているのはこの論文だと思ったけど違ったみたい。また確認します。

 

でもこの結果もかなり興味深い。

独立的自己観が優勢の欧米文化では,emotional supportがwell-beingに影響しない。

正確には,well-beingに及ぼす影響からself-esteemに及ぼす影響を除くと,その影響力がなくなってしまう。

欧米文化圏に生きる人々は,emotional supportさえ自尊心の肥やしになるのかもしれない(回帰分析のようなので「かも」)。

 

これはMarkus & Kitayama (1991)に通ずるよね,だって,欧米文化の人の自己観はかなり周囲の人間関係から独立しているから。

ただ,この自己と周囲の人とが独立しているという感じがいまだにピンとこない。一体どういう感じなんだろう。

そもそも北山(2012)は,明治期でも現代でも日本人の考える「個人主義」というのは,欧米人の考える「個人主義」とは決定的に質が異なるらしい。

日本人の実践している個人主義を見ると,欧米人は「…いや,そうじゃないんだよなあ(苦笑)」と思うんだろうか。

 

これは話すと長くなるが,私は「私は個人主義だから」と,他者との人間関係を築くのを下手な理由にするのは逃げだと思っている(というか,そんな簡単に割り切っていいものかなという危機感を抱く)。

これを初めて思ったのは,米津玄師さんが初めてメディアに露出されて,インタビューを受けていらしたときの言葉を聞いた時だ。

「僕は個人主義なんです」とおっしゃっていた。

私が記憶している限りでは,彼は昔は仲間とバンドを組んでいたらしい。でも,創作意欲がすごくて,自分で「こうしたい」と思ったら意見を曲げられなくて,結局仲間から離れて自分が自由に創作できるニコニコに移ってハチになったらしい(マトリョーシカ大好きです)。

そのあと個人主義のタイトルの本を探した。で,出会ったのが夏目漱石

実は北山先生も引用なさっていたので,少し嬉しかった。その本は今もkindleに入っている。

その本を読んでどう思ったかはメモしていなかったので忘れてしまったが,どうやら日本人が考えて実践してきた個人主義は「にわか」なようだ。

米津さんの個人主義がどういうものかとか,それが「にわか」かどうかは定かではないし,分析するつもりもないが,たしかに,多くの日本人にとって独立と協調のバランスがかなり難しい。

個人主義の本質を外しているため,個人主義になると孤独になってしまう。

私も学部の時の政策研究プロジェクトでワンマンになったことがある。とても反省していて,今でも思い出しては「うわ~…」と悶える黒歴史になっている。

欧米人の個人主義はなぜ孤立に陥らないのか?いや,本当に陥らないのか?

私たち,少なくとも私が実践していて今現在苦しんでいる個人主義と,どう違うんだろうか。

ほとんど日記みたいな論文のメモになってしまった。

 

とまあ,こうしたバックグラウンドがあることを踏まえて,内田先生たちの論文に話を戻すと,emotional supportが自尊心を経由してwell-beingを高めるというのは,なんというか自尊心(自己像?)が門番のような役割をしているというイメージにつながった。

アジア圏の文化では,emotional supportが直接well-beingに影響するため,これを無くすと途端に幸福感が低減する(もちろん他の代替要因で補えるだろうが)。

 

一体,どうしてこの仮説が生まれたのか,そしてこの結果をどうディスカッションしているのか,気になる。

私の推察だと知識不足も相まってここまでしか及ばないから。

何はともあれ論文全体を読んでみよう。